Home Alone

――1曲目の「Home Alone」、これはいつ頃できた曲ですか?

カネコ 雷音レコードから7インチシングルを出すことが決まってから作りました。

――書き下ろしの、ライブに来ている人も聴いたことがなかった曲なんですね。

カネコ 完全な未発表曲です。このアルバムの中で、ライブでもやってない、誰も聴いていない曲は「Home Alone」と「ごあいさつ」しかないので、1曲目が知らない曲だったら、単純にカッコいいなと思って。

――最初にマスタリング前のサンプル盤を聴かせていただいたときは、「恋しい日々」が1曲目だったので、もしかするとどちらをオープニングナンバーにするか、ギリギリまで迷っていたのかなと。

カネコ ライブだと、バンドセットでも弾き語りでも「恋しい日々」を1曲目にやることが多いので、そのまま入れるのもどうかな、っていろいろ考えたときに、「Home Alone」と「祝日」でアルバムをパッケージングしたい気持ちが湧いてきたんです。(ファンに耳なじみのある)「恋しい日々」がいつも通り1曲目にバンッときて、その後に未発表曲の「Home Alone」が来ると、「Home Alone」が輪から外れちゃう気がして。アルバムがリリースされるのは春だし、「Home Alone」はひとり暮らしのことも歌っているし、これから始まるよ! っていう曲だと思うから、その曲が終わって「恋しい日々」のイントロが始まったら、それはそれでいいなという気がして、「Home Alone」を1曲目にしました。

――〈確信的な朝〉というサビの出だしが耳に引っかかります。文章の中で「確信的」という表現を見ることはあっても、ポップソングの歌詞ではあまり聞かないフレーズだなと思って。

カネコ 確かに、そうですね。

――「恋しい日々」にも〈未読の漫画〉というフレーズがあるし、こういうフックを入れるのがカネコさんの歌詞の特徴のひとつだと思うんです。

カネコ そういう(文章表現みたいな)言葉を歌詞に入れるのが、フェチみたいな感じで好きなのかも。歌っていても気持ちがいいし、文章で見たときも気持ちいい。

――〈確信的な朝を何度もむかえにゆくために〉とか、〈確信的だ 今日は必ずいいことあるはずだ〉とか、自分に言い聞かせているように聞こえますね。「確信的」という言葉に内包されている力を歌に込めている感じがします。

カネコ 最初は自分に言い聞かせるために曲を作っていることが多いから、そうなりがちですよね。

――それは放っておくと不安になってしまう、ということ?

カネコ そういう性格でもあるし、そうなるとどんどん沼にはまっちゃうので、それをやめようと決心したんです。一昨年の末から去年の初め頃は本当ににそうだったから、それはあるかもしれない。「このままやるべきことをやっていれば大丈夫」と自分に言い聞かせている感じはあります。「Home Alone」は特にそうかも。

――ひとり暮らしを始めるとき、そういう気持ちになる人は多いかもしれないですね。

カネコ 以前住んでいた家が本当にボロボロだったんですけど、ひとり暮らしなので寝るのが朝方になることがあって、布団に入って天井を見ていると「天井が永遠に遠い!」とか、「私はいつまでこの生活をするんだ!?」って落ち込んじゃうこともあって。そのままズブズブいっちゃうから、私の場合は曲の中で「なんとかなる」と言い聞かせるしかないし、そういう日常の中で、パッと朝起きてめっちゃ天気がよくて、「なんか大丈夫だわ」と思ったときのことをできるだけ記録しておかないと! って思っています。

――この曲がそういう人たちにとっての、ちょっとしたお守りになるといいですね。学校とかアルバイトに行きたくない朝によく効くおまじない、みたいな曲。

カネコ うん、思い出して欲しいです。そういうときにふと聴いて、「大丈夫かな。朝来たし」って救われたらいいですよね。私は朝が苦手で、まず起きられない。天気がいい朝とか日中は好きなんですけど、こんなに晴れてるのになんでこれから働きに出ないといけないんだ、もったいない!という気持ちになることもあるし。なるべく陰気な方にならないようにしたい。そうならないようにするお守りがあればいいです(笑)。

――〈行き場のない花束のため 花瓶を買いにゆく〉という歌詞がとても好きです。素晴らしいフレーズ。

カネコ 私もすごく気に入っています。「Home Alone」という曲は、〈ホームアローン〉というワードが浮かぶよりもずっと前から、〈行き場のない花束のため 花瓶を買いにゆく〉という歌詞を温めていて、この曲にようやくはめられたんです。それをシングルとして雷音レコードから出せて、アルバムのリード曲になったのがすごく嬉しい。晴れた日になかなか外に出られないとき、とりあえず必要なものを口実にして外に出たら意外と気分がよかった、みたいなことって日常の中であると思うから、そういうことを歌にしたいな。

――自分の部屋に花を活ける習慣はありますか?

カネコ はい。冬はなかなか好きな花を見つけられないことが多いけど、春先はチューリップとかを飾ってますね。ワンマンライブとか、誕生日が近いライブでたまに花束をもらうことがあって、嬉しいんだけど、花瓶がなかったからドライフラワーにしていたんですよ。でも『ひかれあい』をリリースしたとき、友達に花束をもらって、「これは活けなきゃ」と思って、大きな花瓶を買いに行ったんです。あるとき道に落ちていて萎んでしまっている花を拾って、家に帰って瓶に活けて仕事をしていたら、2、3時間後に生き返ってパーっと咲いて、「よかった~」と思ったりして(笑)。「行き場のない花」のためだけに外に出て、近所の雑貨屋さんに花瓶を買いに行くのは、すごく綺麗なことだな、って思います。私はすごく陽の入る家に住んでいたので、カーテンを開けてそれを眺めているだけで嬉しくなったりするし。

――部屋に花を飾ることで、1日を尊いものにする効用があるかもしれないですね。

カネコ うん、あると思います。

――雷音レコードから7インチシングルを出すことになった経緯は?

カネコ 本秀康さん(雷音レコード主宰の漫画家)と知り合ったのは2年半前くらいで、私のライブを観た本さんからご連絡をいただいて、私も本さんの漫画を読んでいたから嬉しかった。お互い「いつか雷音でリリースしようね」とずっと言い続けていたんですけど、去年久しぶりにライブを観た本さんから改めて雷音でのリリースのオファーを頂いて。この曲を届けたとき「本当にいい曲だ! 絶対にこの曲で出します」と。すごく嬉しくて自信がつきました。初めての7インチだし、雷音から出せて本当によかった。本さんにも「約束を果たせたね」と言ってもらえて感無量でした。

――「Home Alone」という曲名にしたのは?

カネコ もともとは雷音の話が決まったのがクリスマスの頃だったんですよ。そのときに、めっちゃ安易ですけどクリスマス映画の『ホーム・アローン』が観たい! と思っていて、クリスマスと『ホーム・アローン』を掛けた曲でも作るかなと。そしたら全然違って、なぜかひとり暮らしの曲になっちゃった。

――〈ホームアローン〉を「ひとり暮らし」と意訳したみたいな感じ?

カネコ そうですね。初めてひとり暮らしをした家を出ることが決まっていたこともあって、こういう曲になったのかも。住み始めてから2年くらい経って、やっと慣れてきたのに引っ越すことになって、ちょっと寂しい。そんな感じ。

北沢 〈この暮らしにもようやく慣れてきた〉の後に〈手遊びが大きくなった今でもなおらない〉というラインが来て、ドキッとします。この「手遊び」というのは……。

カネコ 自分の癖で、よく手をいじったり、顔をいじったりしちゃうんですよ。

――落ち着きがないということ?

カネコ そう、だから書いた(笑)。

――こういう印象的なフレーズがいきなり耳に飛び込んで来るのが、カネコさんの曲を一度聴いたら忘れられないものにするんですよね。言葉遣いに天性の勘のよさがあるなと。

カネコ 嬉しいです(笑)。「詞を書く」ということで意識しているのが、ハッとする言葉があった方が私は好きだから、パワーワードを入れたいな、とは日々思っています。

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