セゾン

――LPのB面が「セゾン」で始まるのがいいんだよなぁ。

カネコ いいですよ。またちょっと違う章に入った感じがする。ちょっとずつ、ここからまた開いていくという感じがあって。

――ギターもアコギのストロークで始まって、それをエレキが追いかける感じで。

カネコ そう。「セゾン」はもう、みんなだいぶ知ってくれてて、嬉しいですね。っていうか、「セゾン」がシングルで出たのは4月だから、すごい昔だ(笑)。ライヴで「セゾン」をやるとき、「4月も終わったな」って思う。

――〈4月も終わる毛布をしまう〉っていう、このラインがいい。ここも1番では「4月も」って言ってるけど、2番の最後のヴァースで「4月は」って言ってる。「も」を「は」にしただけでニュアンスが違ってくるよね。

カネコ そう、なんかちょっと違いますよね。

――季節が過ぎ行くことの切なさを感じる。

カネコ うんうん。でも、また巡って来ますしね。♪4月は終わる~。まあ、何事も、ですけど。

――〈たぶんこれからも続いていく〉っていうフレーズが繰り返し出てくるじゃない? これは祈りの言葉でしょう。

カネコ そうですね。「もう仕方ないしね」みたいな部分があるかも、私。

――そうなの?(笑)

カネコ そうなんすよ。どうしても続いていくじゃないですか、生活は。嫌なこととかも。続いていくからといって、なんか諦めたくないなー、って。

――そういうニュアンスもあるんだ。

カネコ そう、私的には。

――出だしの〈いろんな話をしてきたね 二人/落ち着いてきたよ やっといま〉、この2行だけで二人の関係性が浮かぶ。「付き合って2年目ぐらいかな?」とか。

カネコ たしかに。それぐらいかも。そうです(笑)。やっぱりそこが乗り越えるべき時なんで。

――作詞家の阿久悠さんが、詞の中でよく「2年」という言葉を使うのはなぜかというと、恋愛関係はだいたい2年で終わるか続くかが決まるからだと。恋愛における「2年一区切り」の法則があるんだって。

カネコ そうなんすよ! 絶対そうだと思う、私も。「2年一区切り」って絶対あると思います。とりあえず飽き飽きしてきますからね。

――相手の良いところばかりじゃなくて、悪いところもたくさん見えてくるだろうし。

カネコ うん。そのうえいっぱい話もしてるだろうし。それはもう阿久悠さんの言うとおりですよ。さすがですね。

――そこで〈ミモザが揺れる〉という光景を挟むのがまた巧い。二人の行方をミモザの揺れ方で占っている感じ。

カネコ ははは! たしかに。

――さらに〈何も起こらない一部屋に響く/換気扇の音〉というラインから、二人が別々に何か考えてる景色が浮かぶ。

カネコ そうですね。換気扇って、一人暮らしの家だと、けっこうつけっぱなしだったりする。私が今まで住んできた家ではそうだったから。ボケーッとしてるときとかに「ゴーッ」って鳴ってるのが耳に入ってきたりして。

――カネコさんの歌は、さりげない描写でもすごくドラマチックに感じられる。映像的だし。「セゾン」は特に映像が浮かぶ。

カネコ あー、それは嬉しいですね。映像になるって、すごくいいなと思ってはいますね。

――すごく良い映画やTVドラマの一場面みたいな感じ。

カネコ 嬉しい。やっぱり少女マンガとか好きだから、なのかな。

――たしかに少女マンガ的ではある。

カネコ そういう部分はありますね。夢見がちなのかな……?

――(笑)〈丁寧な愛 醒めなくてもいい〉の後にもう一回〈いい〉って言うところが、自分に言い聞かせている感じがする。

カネコ そうだ、「いい、いい」って言ってますよね。それこそ2年じゃないですけど、付き合いたてって、みんな丁寧じゃないですか。

――でも、この曲でいちばん印象に残るのは、「雑に」という言葉の使い方で、ラフになっちゃった日常にむしろ安心感を覚える、みたいなところ。

カネコ そういう油断した姿を見せられるのは、安心してるからだと私は思ってるから。猫も他の人が来ると、やっぱり「うっ」みたいな感じになって出てこない子もいるけど、私と二人っきりでいるときは、やっぱり「好き好き」みたいな感じになるわけじゃないですか。人間もそうで、カッコ付けてる人はやっぱり人前でカッコ付けてるし、でも心を許してる人の前だと、ちょっとボロが出るというか。でもそれが可愛いと思うんですよね。

――猫がお腹を見せるように?

カネコ そうそう。「おまえ、そんな恰好していいの?」みたいな(笑)。たしかに友達が家に来てるときは絶対に大の字で寝ないですもん、うちの猫。私だけのときは、もうドーン!みたいな。そういうことじゃないかなぁ、って思う。まあ、誰にでも懐っこい人もいますけど、でもそういう人だって家ではどうなんだろう、っていう話だし。家での姿を見られるって幸せなことだなと。ある意味、きたないところを見せてるわけだし。

――〈幼いことを気にしてるのか〉というフレーズが繰り返し出てくるのも、すごく印象的です。

カネコ さっき言った「大人ぶらなくてもいいんじゃね?」みたいな話で、ある一定の大人と呼ばれる人たちから見たら、音楽なんかやってプププッ、って笑われるようなことって絶対あると思うんですよ。「そんなこと言わなくてもいいじゃん!」みたいな……音楽じゃなくても、自分のやってることに対して「私、もしかして幼いことをしてるのかしら?」って気に病むのはイヤだな、とは思ってますね。私は何かそういう世間一般との差みたいなことについて、たまに独りでいるときに考えたりするから。かといって、大人になりたいかというと、別にそういうわけでもないし。気にしないようにしよう、って思ってる。

――そんな風に揺れる気持ちが、ラスト・ヴァースのいちばん最後で〈気にしているのか? 気にしているのか〉って、語尾が上がったり下がったりするところによく出ている気がする。

カネコ そう! そうそう(笑)。

――その気持ちを音で表すようなギターのリフを3回繰り返して、最後にちょっと上がって終わるのもいいなぁ。

カネコ うん。「幼いことを」とは表現してるけど、「おまえはおまえですよ」っていう感じなのかな。自分の考えや意見を言うことがわがまま、っていうか「この人、ちょっとおかしいのかな」って思われたりすることがあるじゃないですか。それがイヤだなー、っていうのもあるし、子どもってやっぱ素直だし、なんで壁に絵を描いちゃいけないのかも知らないし、なんかすごいじゃないですか、それって。私は、壁に絵を描いてもいいと思うけど。

――分別を身につけることの良さとつまらなさ、みたいなこと?

カネコ そうそう。もちろん大人だし、いろんな人と関わってるし、自分のおカネで生活もしてるから、やっていいことといけないことの判断はしないといけないけど、意見を言うことはいけないことじゃないし、「私の中にはこういう考え方があるんですよ」って、人とちょっと違うことを言うのは別におかしなことじゃないから。それもわがままだと他の人から思われたりするような世の中だという気がしていて。そこで悩むのはイヤだなー、って思う。

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