燦々

――「愛のままを」がノイズで終わって、そこでパッと「燦々」に移るところがカッコいい。「かみつきたい」の頭でBobくんのカウントが入って曲が始まるのと、ちょっと共通するものがある。

カネコ たしかに。ちょっと息継ぎするような感じ。あとは弾き語りにできるだけ寄り添ったアレンジにしたいな、っていうのはみんなずっと思ってた。これだけはレコーディングの前日とかに考えて録ったんですよ。

――最初のデモテープからワルツだったの?

カネコ そう、リズムはもうずっとこれで。

――それが素晴らしいな。このアルバムを締めくくる曲がスローなワルツというのは、すごくしっくり来る。

カネコ いいですよね。なんかね、寂しいし。ボケーッと聴いてもらえたらいいな。

――出だしの最初の光景から最高なの。〈日に焼けたぬいぐるみたち/この暮らしの事情を誰よりも知ってる〉。

カネコ ね? いいですよね。その辺とか気に入ってます。

――次の〈出窓から見える向かいの家のこどもがひとり/バスケの練習をしてる〉っていうラインとか、曲の出だしからすでに映像が浮かぶ。セカンド・ヴァースの3行目の〈おだやかじゃなくていい毎日は〉というフレーズにもドキッとする。「波乱も受けとめるぞ」みたいな感じ。

カネコ でもなんか、ちょっと揉め事とかあるぐらいが楽しいですよね。ずーっと穏やかだと、たぶんボケちゃう。

――老夫婦が縁側でお茶を飲みながらひなたぼっこしてる、みたいなのは……?

カネコ そうそう(笑)、ちょっとまだ早いかなっていう。全然まだ酔っぱらって遊んでいたいし、全然失敗とかしていたいなー、って思う。縁側でお茶はちょっと早いかな。

――〈ざらついた壁を視線でなぞる/灰色の空に退屈をおぼえる〉っていうラインも映像的でいいなぁ。カメラの画面が切り替わる感じ。

カネコ あー、映像がね。嬉しい。

――こんな風に、情景とそのときの感情の変化みたいなものを重ねて、1カメ、2カメとか画面を切り替えていくように描写するのもテクニックだと思うけど、カネコさんはそういうのが巧い。

カネコ いやぁ、有り難いです。

――この曲の後半で、〈胸が詰まるほど美しいよ ぼくらは〉の辺りから男声コーラスが重なってくるのが、すごく効果的。

カネコ あ、そうですね。「ぼくらは花束みたいに寄り添って」と「燦々」は、男の人の低い声のコーラスが入ってて、それがすごくいいんですよね。今回はコーラスがけっこうかっこいいなー! って思ってる。歌のディレクションもほとんど自分でやって、それもけっこう楽しかった。いつもはヤスさんと二人で考えるんですけど、今回ほぼ自分でやったことで、「あっ、私、こうやって歌いたいんだ!」って、やりながら分かった気がしました。

――〈悲しくて寂しい夜にも/サモエドは笑ってる/そう思えば愛おしい日々〉っていうラインの“サモエド”というのは?

カネコ 犬です。白い大型犬で、顔が笑ってるの。こっちがロンリーなとき、「一方その頃……」って感じ(笑)。ムクムクしてて本当に可愛いんですよ。大好き! 抱きしめたい。寂しいとインスタグラムで動物の動画をずっと見ちゃう、みたいなことでもないけど、そんな風に思える対象がいると、なんかいいですよね。

――それもまた生活の知恵だと。

カネコ そうですね。自分は別に気持ちの切り替えを上手にできてるわけじゃないですけど、そう思うことでちょっと楽になるなら、いいですよね。私の歌がそういう材料になればいいな、って本当にそう思ってる。

――このアルバムのすべての歌が、きっとそういう歌になると思う。

カネコ そうなったら嬉しい。ささやかでいいし、素朴でいいんですけど。

――お守りだったり、生活の知恵だったり、しんどいときの処方箋だったり、恋愛の壁を乗り越えるための秘訣だったり……小さな宝石みたいにキラッと光るものがいろいろ散りばめられた、「一家に一枚」みたいなアルバムですよ、『燦々』は。

カネコ 一家に一枚がいいですねえ。本当に、少しは寄り添えるとか、ちょっと良くなる手助けをしたい。

――『暮しの手帖』みたいなアルバムかも。

カネコ たしかに。そうなればいいなぁ。

――〈これはあなたの手帖です/いろいろのことがここに書きつけてある〉。『暮しの手帖』の扉の言葉。

カネコ ね! これを聴いてください。

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